なぜかフルートは音量について他の楽器から指摘されることが多いように思います。高音域はうるさく、低音はもっと欲しいと。自分の経験や周りのフルーティスト、生徒に至るまでこの手の話はよく聴きます。
しかしこれは楽器の構造上の問題なので、この事実を受け入れて対処するしかありません。楽器を買い替えた所でほとんど改善はしないでしょう。
弦楽器は低音に行くほど弦が太くなるのでふくよかさが増し、高音域は細い弦なので繊細に響きます。管楽器でも、フルート以外は普通に吹こうとするならこのように響いているようです。
音楽的にも、低音域を豊かにその上の音域は徐々に軽く乗せていくのが理想です。例えるならピラミッドのように。ピアノはこの響きの側面からみれば理想的な楽器なのでしょう。同じ圧力で低音と高音を弾けばわかるとおり、音楽の方向性と力の方向性が同じなのです。ベクトル上のさじ加減のようです。
他の楽器の表現が”簡単”と言っているわけではありません。それぞれの楽器には、各々特有の事情がありますので、音楽を追求する上で難しさは同じです。
(響きの側面から言えば)フルートは正に、この理想の真逆をいく楽器です。
高音域はやかましく、低音域は響きません。
このことが他の楽器奏者からみると彼らの一般常識から外れた”音楽的に乏しい”と感じさせる原因のひとつになっているのかもしれません。
また倍音の量も関係してきます。倍音とは実音に含まれる周波数の倍数の響きのことです。普段は実音以外を意識することはありませんが、響きの中に含まれるもので、音色を作る上で大切なものです。
この倍音は含む量が多いほど”豊か”と感じます。低音域ほど上の音域に向かって多くの倍音を含むので、豊かに響き易いということがわかります。しかし、低音域は波長が長いので遠くには届きません。かわりに周りを振動させて響かせています。フルートは、そもそも持っている音域が高いため、中低音の楽器に比べて倍音が乗る余地が残されていません。そのため音色が単純に(良く言えば”純粋な”)鳴ってしまいます。しかし、波長が短いため近くのものを振動させるのではなく突き抜けて、遠くまで届いてしまいます。どこかのお祭りの笛の音だけが届くのはよくあることですね。
倍音を理解すると、フルートの音量について解決策が見えてきます。息の量を増やすのではありません。倍音をコントロールすることです。
まずは、今出そうとしている音に本来何の倍音が含まれるべきなのか、下の楽譜を見ながら理解しましょう。例えば低音のドには、オクターブのド、ソ、ドが含まれます。鳴りが豊かになると、実音以外の倍音成分が充実してきます。
アンブシュアの項で説明していますが、同じ息で唇を緩めたり狭めたりしながら、音色の変化をつくります。前述の通り、低音域は倍音が乗りやすいので、明確な違いを感じられるようになるまで練習すると良いと思います。くれぐれも息の量で解決しようとしないように。
高音域はそのまま吹けば鋭くなるので、出しやすい音域から最上の柔らかさで、ロングトーンや音階を少ない息で済むように吹きましょう。
一朝一夕で出来ることではありません。様々なフレーズや、好みの音楽を理想に近づけるように演奏しているうちに少しずつ出来るようになることだと思います。
それでもなおフルートに対して要求があるならば、それはそのアンサンブル自体に問題があるのかもしれません。または、編成や曲かもしれません。
足りないなら足せば良いし、うるさいなら引けばよいのです。しかし、開き直るのも成長を止めることになるので、奏者が努力しようとするのは当然ですね。
このようにフルーティストが策を尽くした所で、他の楽器からすればやはり、高音はうるさいし、低音は乏しいと感じられてしまうでしょう。それでも、音楽の方向性に添っていると胸を張って言えることです。
まとめ
・フルートの低音域は乏しく、高音域はやかましく鳴りがち
・倍音をコントロールすることが大切
・フルーティストは他の楽器とは正反対の意識を持たなければならない