音がプルプル震えてしまう原因には2つあります。ひとつ目は唇が震えてしまう場合、ふたつ目は息が震えてしまう場合です。
ひとつ目は、精神的な緊張や吹きすぎ、力の入れすぎによる疲労・疲弊が原因です。これはリラックスすることを心がけ、無駄な力を抜き疲れたら休むことで改善に向かいます。とはいっても、本番や人前で演奏するときは緊張してしまうものですね。
ふたつ目はの原因は、呼吸そのものにあります。ご存知の通り呼吸とは、空気を吸って吐くことです。日常生活では、何気なくおこない特に意識することはありません。息を吸うと、身体の中ではどうなるかといえば、横隔膜という肺の下に位置する筋肉が、空気を取り込むために下の方へ収縮して緊張します。そうすることで、胸腔が広がって空気が入ってきます。緊張を解くと、横隔膜は元の位置に戻り、胸腔が狭まって空気を外は排出します。これが呼吸の一連の流れです。
フルートを吹く時には、この呼吸と逆の事を意識しないといけません。通常の呼吸では、ゆっくり吸い、はやく吐き出します。この方が楽だからです。肺に空気が満ちている状態では、横隔膜は緊張しています。ゴムを伸ばしているような状態で、はやく緊張を解きたいので、はやく吐き出します。
しかし、演奏に必要な呼吸は、はやく吸い、長く吐くことです。
つまり素早く収縮し、ゆっくりと元の位置に戻す必要があります。この時の緊張に横隔膜が絶えられないので、プルプル震えてしまうのです。また、吹き続けるのに必要なのは、一気に吐き出すための瞬発力ではなく、長く維持するための持続力です。
重いものを持ち続けたり、山道や傾斜を歩き続けて膝が笑ったり、早い動きよりも、ゆっくりとした動きのスクワットで腿が震えてしまったりといった経験があるのではないでしょうか?
楽器を始めて割と最初の方に直面するこの「音が震えてしまう」という問題に、腹式呼吸の方法や腹圧のかけかたや、肺活量の増やし方などといった事柄を持ち出してなんとか解決しようとしているように思われます。
これらは、元を正せばすべて間違ってはいないが、ニュアンスがうまく伝わっておらず誤解されていることが散見されます。
肺活量を増やし、腹圧をかけ、腹式呼吸で強い息を出すのが「目的」のように語られています。
しかし、こんなことは一切ないし身体に負担をかければ自然な演奏なんて出来るはずがありません。無理やり息を吸い込んで腹に力を入れて吹くようなことは、フルートにとっては意味のないことです。
「フルートにとって」と書いたのは、どうも呼吸を語るときには、すべての楽器を対象に一緒くたにされてしまっているようだからです。
フルート以外の楽器にはマウスピースやリードがついています。すべての楽器は、唇で咥える、またはアパチュア(唇の空気の出るところ)が覆われています。息を出した時に、物理的にリードやバズィングで唇を震わせることで、必然的に息圧がかかっています。それらの楽器は空気を吹き込まないと入っていきません。対してフルートはどうでしょうか?息を遮るものは何もありません。唇の外に圧力はほとんどかかりません。フルートは歌口で息を出すと空気の振動(空気リードといいます)が起こり、この時はじめて微細な抵抗を感じるのみです。
かたや風船を膨らますように息を出し、フルートはただストローに息を出すようなもので、両者の息の出し方が同じはずありません。
フルートの呼吸は、出すことより出さないことを意識すべきです。そして、このように呼吸を制御することで腹圧を感じられるようになります。身体は出したがっている息を、出さないようにするわけですから楽ではありませんね。必然的な横隔膜による胸腔内の圧力弁、つまり腹圧です。限りある肺活量は効率的に使うべきなのです。
ロングトーンや長いフレーズでこのように練習すれば、必要な所に必要なだけの筋肉が発展し、いずれ楽にをコントロールできるようになるでしょう。
胸式呼吸だからとか、吸う時に肩が上がるから良くないとか言われてしまうこともしばしばあるかもしれません。それは、”無理に”吸おうとするから起こることです。日常の何気ない呼吸でそうはなりませんよね?おしゃべりを始める前のように、自然な呼吸で吹けば良いのです。最初はうまく行かないかもしれませんが、正しい吹き方は正しい身体をつくります。
例えば楽器を持たなくても、長く息を吐くようにしてみれば、安定した吹奏のコツをいち早くつかめることでしょう。
まとめ
・息を出すことより「出さないこと」を意識する
・無理に大量に息をしようとしないこと
・長く息を吐き出している時のお腹を意識する