P.L.グラーフ先生の講習会に参加した時のことです。その受講生は、レッスン曲の演奏途中で何度もつまづいてしまいました。楽譜を凝視し、音を探るように吹いていました。最初先生は、極度の緊張でパニックにおちいっているようなその生徒を、なんとか落ち着かせようと声をかけていました。傍で聞いている私たち受講生には、その生徒が明らかに準備不足で講習に参加していると感じていました。なぜなら、ここに参加するような人たちは、いずれプロを目指す覚悟でいるからです。彼女の演奏は、そのレベルに達しておらず、音もテクニックも鍛えられたものではありませんでした。私たちが気づくくらいですから、当然先生が気づかないはずがありません。
何度もつまづく彼女に先生は問いました。
「君はプロになりたくて参加しているのかい?」
彼女は答えます。「もちろんです。」
「毎日どれくらい練習していますか?」
彼女は、少し間をおいて、「平均にすると約2時間位です」
先生の表情は一変しました。語気を強めて、
「いい加減にしなさい。そんな練習でプロになろうとは考えられないし、無理なことです!音楽を仕事にしたいならもっと本気で向き合いなさい!」
細かな表現は忘れましたが、このようなニュアンスでたいそう不機嫌な様子でした。
その後も、ありがたいお説教はしばらく続き、プロを目指す覚悟としては、私を含め他の参加者にも突き刺さるものがあったことでしょう。
やがて彼女は泣き出してしまいました。最後はなだめる形で、そのレッスン時間を終えたのです。