クロード・ドビュッシーの「ゴリウォーグのケークウォーク」(Golliwogg’s Cakewalk)は、ピアノ組曲『子供の領分』(Children’s Corner)の第6曲目です。この組曲は、1908年に作曲され、ドビュッシーの娘シュシュ(本名:クロード=エンマ)に捧げられました。この曲の背景や特徴、ケークウォークのリズム、そしてタイトルの由来について、史実を検証しながら詳しく探ってみましょう。
ケークウォークの起源と影響
「ゴリウォーグのケークウォーク」は、アメリカの黒人音楽の一種であるケークウォークのリズムを取り入れています。ケークウォークは、19世紀末から20世紀初頭にかけて人気のあったダンス音楽で、特にラグタイムの影響を受けています。ケークウォークの特徴的なリズムパターンは、シンコペーションによって生まれる躍動感と緊張感です。このリズムは、後にラグタイムやジャズの発展に大きな影響を与えました 。
ケークウォークは、アメリカ南部の黒人コミュニティで発展し、奴隷たちが模倣した白人貴族の舞踏会のパロディとして始まりました。優雅に見える動きを競い合うこのダンスは、しばしば即興性を含み、そのユーモラスな性格が特徴的でした。このリズムとスタイルは、ラグタイムの音楽と共にアメリカ全土に広がり、ヨーロッパにも影響を与えるようになりました 。
「ゴリウォーグのケークウォーク」の特徴
スタイルと影響
「ゴリウォーグのケークウォーク」では、ドビュッシーが当時パリで流行っていたアメリカの大衆音楽に興味を持っていたと考えられます。黒人音楽のリズムとラグタイムのシンコペーションを取り入れ、曲にユーモラスで軽快な雰囲気を与えています。このようなスタイルの選択は、当時のフランスにおいても新鮮で斬新なものでした 。
構造
この曲はA-B-A形式で構成されています。Aセクションは明るく活発なテーマを持ち、Bセクションでは一時的に抒情的で穏やかな旋律が現れます。その後、再びAセクションに戻り、楽しいリズムとエネルギーを持続させます。この構造は、典型的なラグタイムの曲にも見られる形式であり、ドビュッシーの作品においても独特の魅力を放っています 。
タイトルの由来
「ゴリウォーグ」というタイトルは、19世紀末から20世紀初頭にかけて人気のあった黒人のキャラクター人形に由来しています。このキャラクターは、フローレンス・ケイト・アプトン(Florence Kate Upton)が創作したもので、児童書シリーズに登場します。ゴリウォーグは、いたずら好きで愛らしい黒人人形として描かれており、当時のヨーロッパとアメリカで広く知られていました 。「ゴリウォーグの冒険」シリーズは好評で、13編の作品が作られることになりっました。
ドビュッシーと児童文学
ドビュッシーは、愛娘がいたことで娘のためにそろえた児童文学の中にたまたま「ゴリウォーグ」を見つけたのではないだろうか?
真相はわかりませんが、逆説的に「娘が好きな絵本から流行っていたアメリカ音楽」を深く意識したと考えられなくもありません。
ドビュッシーの時代、ゴリウォーグのキャラクターは広く愛されていましたが、現代の視点から見ると、人種差別的な要素を含んでいるとされることもあります。当時の批評家の中には、黒人の登場人物の名前を使ったことでドビュッシーを人種差別主義者と非難する者もいました。しかし、ドビュッシーの意図は、人種差別的な固定観念を永続させることではなく、児童文学の登場人物とその世界に敬意を表することだったと一般に認められています 。
曲の影響と評価
「ゴリウォーグのケークウォーク」は、ドビュッシーの最も人気があり、聴きやすい曲の一つでしょう。多くの演奏家よって演奏され、幅広い観客に愛されています。フランス印象派の要素とアメリカの大衆音楽の融合は、ドビュッシーのユニークな作曲スタイルを示す素晴らしい例です 。
曲名は、ドビュッシー自身が「ゴリウォーグのケークウォーク」と名付けました。フローレンス・ケイト・アプトンの児童書の登場人物ゴリウォーグにインスピレーションを受け、当時フランスで人気があったことに敬意を表してこの名前を使いました。ドビュッシーは、自分の娘シュシュのためにこの曲を作曲し、彼の音楽が子供たちに楽しんでもらえることを願ったのではないでしょうか。
私見とまとめ
ドビュッシーが「ゴリウォーグのケークウォーク」を作曲した背景には、彼の愛娘への深い愛情がありました。楽曲は本格的な黒人のリズム音楽を目指したわけではなく、ケークウォークリズムの楽しげなエッセンスを取り入れ、愛娘が楽しげに踊る様子をイメージすることができます。この曲は、ドビュッシーのユーモアと創造性、そして音楽に対する多様な影響を反映した作品です。