作曲者によってアーティキュレーションや楽語の注釈が加えられるようになったのは、だいぶ後になってからのことです。それは、演奏者も作曲者も往来が盛んになると、自分とはまったく異なる演奏習慣の人たちと仕事をするようになったからです。同じ楽譜でも、持っている常識によって異なる解釈で演奏してしまいます。それを避けるために、意図することを書き込む必要がありました。
クラシック音楽が世界に浸透し、作曲者が大陸を股にかけて活躍を始め他事をきっかけに、この表記は尚いっそう詳しくなっていきました。人種も文化も年代も違う人々に、楽譜だけで正確に音楽を伝えようと、どれだけ苦心したことでしょう。
今私たちが知っている”丁寧”な楽譜はこのようにして一般的になりました。楽譜の通りに演奏すれば、音が並び、何となくそんな感じの演奏になります。