フルート 齋藤 寛 オフィシャルサイト

劣等感

結果は惨敗でした。遥かに自分よりもスゴい人たちがたくさんいました。控室の音出しで、舞台袖で他の人の演奏が聴こえる度に、場違いだと感じました。今までの自信はもろく崩れました。井の中の蛙とはこのことですね。

同年代のすごい演奏は耳に焼き付いたまま、劣等感が芽生えたのはこの時です。ひたすら悔しかったのを覚えています。その後この劣等感はどんなに周到に準備をしても拭えないものとなりました。必ず自分よりスゴい人に出会うのです。

大学に入っても社会に出ても、国外に出てみても、視野が広がっていくほど、専門性が高まる集団に近づくほど強いコンプレックスを感じるようになりました。自分などちっぽけな音楽家はいらないと思えるのです。もしかしたら「井の中」で演奏している方がもっと楽しく生きられていたかもと思ってしまいます。

これは、音楽の世界だけではないでしょう。勉強の世界も、スポーツの世界もそうです。近年猛烈な競争率と言われているお笑いの世界でも、彼らは絶対に「クラスの面白いやつ」だったはずです。笑ってもらえるのが楽しくて、喜んでもらえるのが嬉しくて、その道に進んだと思います。「オレ面白いやつなんちゃう?」

けれど、オーディションや養成所に行けば、色んな所から「面白いやつ」が集まるわけで、その中から更に面白くなければ先に進めません。彼らもまた優越感から進む度に劣等感を抱えてネタ作りに励むのでしょう。

もっと音楽を素晴らしくしようと苦心し、より面白く笑えるものに身を削るのです。それは、華やかな表舞台に見えることはありません。逆のことに心を砕いているのです。苦しみしか感じない音楽や辛さだけが押し出されるネタなら、お客さんは幸せになれないし、腹の底から笑えませんからね。

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