時は過ぎ、念願かなって音大へ進学。その後、海外の講習会へ参加することになりました。ずっと先入観として持っていた「本場の人間は上手いに違いない」という思いは、この時崩れ去ることとなります。彫りの深い顔立ちにブロンドヘアー、映像でしか見たことのないような”外国人達”の中で、完全に気負っていましたが。演奏を聴いて感じたことは、
「普通」
もちろん上手な人もいましたが、ドイツ人だからバッハが特段に上手いわけではなく、オーストリア人だからといってモーツァルトが優れているわけではありませんでした。
どうやら西欧の人間だからといって、クラシック音楽が得意ではなさそうです。特に、日本人だからという理由で「クラシック音楽から遠い」とはならないと気づく良い機会でした。
街を歩けば、ヨーロッパの旧市街の観光地を除けば殆ど近代的で、ところどころ古い建物や教会を見ることはありますが、カフェからはポップスが、扉を全開にしたブティックからはテクノが聞こえてきます。商業施設の中では、オシャレなジャズが流れています。ラジオをつければ、ハイテンションのDJが流行曲を次々と紹介していました。
クラシック音楽が溢れていると思っていたヨーロッパは、普通の街でした。
外国人旅行者が日本に対して、サムライや忍者を期待しているのと同じことだったのです。