フルート 齋藤 寛 オフィシャルサイト

アイ コンタクト

日没の時刻に自然光だけを頼りに行うという演奏会がありました。夕日から闇への移り変わりを効果にするものです。奏者の譜面台には、譜面灯が設置されていました。暗くなったところで、譜面が見えるように点灯させるのです。暮れてきた頃に、私は譜面灯を点けました。なにも問題無いようでしたが、少しずつ私のものだけ暗くなっていったのです。電池切れです。まだ先はあるのに、ほとんど微弱な光を発する程度になってしまいました。消えないで!と祈りながら、必死に譜面に食いつきました。見失ったら戻れませんからね。舞台は夕闇の効果で、深淵な雰囲気を醸しています。対して私は、極度の緊張に襲われていました。

全てが済んだ時には、無事でよかったと生還を喜んだものです。素晴らしいコンサートでした。
そして、見開きすぎてカラカラに乾いた眼球は、コンタクトを完全に異物として、大量の涙と共に排除しようとしました。涙が出ると勝手に鼻水も出るわけで。鼻をすすりながら、目を潤ませているという、はた目には「感極まって涙している」演奏家を演出してしまったわけです。


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